九州7県のFIT認定太陽光発電設備は、小規模だけで63,416件。位置情報は大字レベルまでという限界があります。輪郭を補うためにAIによる被覆推定に取り組んだ経緯と、機械だけでは実用水準に届かず最後は人の目で数百件を確認することになった記録です。
こんにちは、MAPRISE開発チームです。今回は九州7県で取り組んだ太陽光パネル検知の記録です。
FIT制度と、この10年で起きたこと
2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギーの普及を目的に、発電した電力を一定価格で買い取ることを国が保証する仕組みです。この制度のもと、全国で膨大な数の太陽光発電設備が設置されました。
MAPRISEに取り込んでいる経済産業省の認定データを見ると、九州7県だけでも10〜50kWの小規模設備が63,416件、2MW以上の大規模メガソーラーが176件登録されています。数字だけを見ても、その広がりが伝わってくるかと思います。
「どこに建っているか」が気になり始めた
制度そのものの是非を論じるつもりはありません。ただ、地図の上でひとつずつ位置を確かめていくと、設置場所には実にさまざまなパターンがあることに気づきます。
工場やビルの屋上、埋立地の一角、耕作をやめた農地、ゴルフ場の跡地——こうした場所であれば、土地の有効活用として素直に納得できます。
一方で、山肌を切り拓いた斜面や、里山の中腹に整然と並ぶパネルを見つけたとき、少し立ち止まってしまうことがあります。

上の画像は、鹿児島県内の山間部を航空写真で見たものです。右側の紫色に塗られた部分が、後述するAIが「ここにパネルがある」と推定した範囲です。谷筋に沿って、まとまった面積が斜面を覆っています。
土砂災害のリスク、景観への影響、そして20年後の設備をどうするのか。これは良い・悪いという話ではなく、「そこに何があるかを知っておくこと」自体に意味があると考えています。不動産の調査をする立場であれば、なおさらです。
MAPRISEでの実装 ― 3つの層で捉える
MAPRISEでは、太陽光発電設備を3つの異なる層で表現しています。

第一に、FIT認定設備の点データです。経済産業省が公開している認定情報を、出力規模ごとに色分けして表示しています。ただし、この位置情報には限界があります。

登録されている住所は「大字レベル」までのことが多く、実際のパネルは半径数百メートル以内のどこかにあるという精度です。ポップアップにもその旨を明記しています。あわせて、その地点が森林地域内かどうかといったリスク判定も表示するようにしました。
第二に、パネル設置範囲のポリゴンです。OpenStreetMapに人手で描画された輪郭を取り込み、露地設置か建物関連かを推定して分類しています。

こちらは輪郭が正確ですが、人が描いたものしか存在しません。網羅性という点では課題が残ります。
第三が、AIによる推定被覆エリアです。ここが今回お話ししたい部分になります。
同じ地点にこれら複数の情報が重なる場合は、選択ポップアップからどちらを見るか選べるようにしています。

AIで輪郭を描く ― 遠回りだった開発の経緯
国土地理院が公開している航空写真(電子国土基本図オルソ画像)を入力として、深層学習モデルにパネルの位置を推定させています。
この技術の原型は、2019年に関西のある地方銀行が主催したビジネスコンテストへ応募した際に磨いたものです。当時から「衛星画像・航空写真から地物を読み取る」という方向性には関心があり、その蓄積が今回に活きた形になります。
とはいえ、実装は決して順調ではありませんでした。
当初はフランスで公開されていた太陽光パネル検出モデルを利用し、転移学習で日本向けに調整することを考えていました。ところが、これがうまくいきませんでした。フランスの航空写真は地上解像度20cm程度で撮影されており、日本の50cmとは条件が異なります。加えて、屋根の形状や周辺の土地利用も違います。実際に検証したところ、実在する大規模メガソーラーの真上のタイルであっても、98%以上が「パネルではない」と判定されるという結果でした。
そこで方針を切り替え、日本の航空写真で個別に学習させ直すことにしました。誤検知しやすい地物――森林の樹冠、干潟、養殖いけす、ビニールハウス、造成中の裸地、採石場――をひとつずつ収集して学習データに加え、そのたびに精度を測り直しました。
それでも、最後は人の目が必要でした
学習を重ねても、機械だけで実用水準に届くことはありませんでした。
検出結果をそのまま採用した場合、実際にパネルがある割合は数パーセント程度にとどまります。面積や形状の規則性で候補を絞り込むことで、この割合は5割前後まで改善しましたが、それでも半分は誤りです。
最終的に採った方法は、絞り込んだ候補を一件ずつ航空写真で目視確認するという、きわめて原始的なものでした。九州7県で数百件を人の目で判定しています。

判定してみると、機械が「パネルらしい」と判断したものの中には、果樹園の畝、園芸ハウスの反射、海面の波紋といった、確かに紛らわしいものが数多く含まれていました。逆に、実際のパネルであっても施設の一部しか捉えられていないケースも少なくありませんでした。
このあたりの限界は、地図上のポップアップにも正直に記載しています。「AI推定の輪郭は、人手描画より精度が低い参考情報」という但し書きは、そのための表示です。
オープンデータを、そのまま使わないということ
MAPRISEでは多くの公的オープンデータを活用していますが、そのまま並べただけでは価値が生まれないと考えています。
FIT認定データは位置が大字レベルまでしか分からず、OpenStreetMapの輪郭は網羅性に欠けます。それぞれ単独では使いにくいものを、AIによる推定を第三の層として加え、3つを重ね合わせることで初めて「この場所に、どのくらいの規模で、いつから設備がある」という像が結ばれます。
今回の太陽光パネル検知は、その一歩踏み込んだ加工の典型例だと思っています。

上は、同一地点を地図・航空写真・地形・陰影起伏の4画面で同時に見た様子です。斜面のどこにパネルが置かれているかは、地図だけでは分かりません。
いまは九州だけです
正直に申し上げると、現在この機能が使えるのは九州7県のみです。
理由は単純で、GPUの計算コストです。航空写真をタイル単位で読み込み、一枚ずつ深層学習モデルに通していく処理は、それなりの計算量になります。九州全域を処理するだけでも、数百万枚のタイルを扱うことになりました。
スポットインスタンスの活用やモデル構成の見直しでコストは大幅に抑えられましたが、それでも全国となると桁が変わります。
今後は西日本から、少しずつ範囲を広げていきたいと考えています。焦らず、精度を確かめながら進めていくつもりです。
免責事項
本記事で紹介した「パネル被覆(AI推定)」は、国土地理院の航空写真を機械学習により解析した推定結果であり、正式な測量ではありません。輪郭は網羅的ではなく、背景の航空写真は地域により撮影年が数年古い場合があります。近年設置された設備は写真にも輪郭にも存在しない場合があります。設備の有無については、FIT認定点レイヤーもあわせてご確認ください。
出典
- 再生可能エネルギー電子申請サイト(FIT認定情報):https://www.fit-portal.go.jp/
- 国土地理院タイル(電子国土基本図オルソ画像・標準地図・陰影起伏図):https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html
- OpenStreetMap contributors(ODbL):https://www.openstreetmap.org/
ご意見・ご質問は info@maprise.jp までお気軽にお寄せください。
タグ: #太陽光発電 #FIT #AI #データ品質 #九州
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