8月上旬に九州7県から全国へ一気に広げたデータを、この2週間かけて磨き直しました。鑑定評価書や大規模盛土造成地のようにそのまま件数を増やせたものと、立地適正化計画区域や旧版地形図のように1件ずつ事情が違ったもの。その境目と、詰まったときに官公庁へ確認する地道な作業を、正直に記録します。
こんにちは、MAPRISE開発チームです。8月上旬から中旬にかけて、九州7県から全国へデータを広げる作業を一気に進め、登記所備付地図とPLATEAU、そして8レイヤーの全国対応についてこのブログでも報告してきました。今回はその続き、この2週間で実際に何をしていたかの記録です。
派手な「全国対応、完了しました」という看板を掲げた後の2週間は、地味に「磨く」フェーズでした。九州7県時代に積み上げてきたやり方の多くは、件数を掛け算するだけの「N増し」で全国に持っていけましたが、そうはいかないものも一定数あり、その線引きが今回のテーマです。
この2週間で動いた項目
| 項目 | 変化 |
|---|---|
| 鑑定評価書情報(国土交通省 不動産情報ライブラリ) | 8県 → 全国47都道府県・258,214件 |
| 大規模盛土造成地(国土数値情報A54) | 九州7県 → 全国47都道府県・52,530件 |
| 宅地造成等工事規制区域・特定盛土等規制区域(A56) | 九州6県 → 全国43都道府県・104,309件(青森・香川・佐賀・沖縄は対象外) |
| 国有林(小班・林道、林野庁) | 九州7県 → 全国47都道府県(林道は沖縄を除く46都道府県) |
| 太陽光発電設備・FIT認定(経済産業省) | 九州7県 → 全国47都道府県・約36.6万件 |
| 立地適正化計画区域(国土数値情報A55) | 新規、全国45都道府県(鳥取県・沖縄県は原典データ未公開のため対象外) |
| 旧版地形図(昭和戦前期5万分の1、スタンフォード大学) | 新規、全国の主要地域(仙台市・京都市・大阪市など一部未収録) |
| 建物・道路(OpenStreetMap) | データ自体は既に全国対応済みだったが、LP文言に残っていた「九州7県」表記を是正 |
| 農地区画(筆ポリゴン) | 収録件数の表示誤りを是正。実データに基づき約2,647万件(41都道府県)へ |
| PLATEAU建物の地震シナリオ別倒壊確率 | 「全国化した」という誤記載を訂正、実際は九州27自治体のまま |
| 都市計画決定GISデータの出典表記 | 生成元JSON内の4箇所の表記ゆれを完全名に統一 |
| データ調達ポリシー(/data-policy) | 新設。年度別ルールの明記、「その他のデータについて」節を追加 |
そのままN増しできたもの
鑑定評価書情報は、8県23,360件から全国47都道府県258,214件へ、件数は約11倍に増えました。それでも国土交通省 不動産情報ライブラリのAPI構造そのものは都道府県境で変わらないため、取り込みロジックは無改修で全国分を流し込めています。大規模盛土造成地(A54)・宅地造成等工事規制区域(A56)・国有林・太陽光発電設備(FIT認定)も同じ部類で、いずれも前回の記事で紹介した8レイヤーの全国化と同じ「dry-run→件数一致確認→本投入→県別件数diff確認」という手順をそのまま横展開しただけで済んでいます。件数の桁が変わっても仕組みは変わらない、いちばん理想的なN増しの形です。
個別に確認しないといけなかったもの
一方で、今回の作業の大半はこの理想的なパターンには当てはまりませんでした。理由は大きく3つに分けられます。
1. そもそも数える対象が全国に存在しない
立地適正化計画区域は、47都道府県ではなく45都道府県までしか収録できていません。理由は単純で、鳥取県と沖縄県については、出典元である国土交通省 国土数値情報(A55)自体がまだ公開されていないためです。加えて、立地適正化計画は市町村が任意に策定するものであり、計画を策定していない市町村にはそもそも区域データが存在しないという制度上の事情もあります。宅地造成等工事規制区域(A56)が青森・香川・佐賀・沖縄の4県で対象外になっているのも、区域指定そのものが行われていない、あるいはデータが公開されていないという同種の事情です。
旧版地形図(昭和戦前期の5万分の1地形図)も同じ壁にぶつかりました。スタンフォード大学図書館が公開しているパブリックドメインのコレクションを使わせてもらっていますが、デジタル化の進み具合は地域ごとにばらばらで、仙台市・京都市・大阪市といった主要都市を含む一部地域が、2026年8月時点でまだ収録できていません。全国のメッシュ数から単純に「あと何都市」と見積もることはできず、コレクションを1枚ずつ確認して収録可否を判断する作業になりました。
「未収録」が不具合なのか、そもそも対象が存在しないのかを1件ずつ見極める必要があり、これは件数を掛け算するだけでは絶対に片づかない作業です。実はこの見極めを誤ると危険なことも、8月半ばに一度経験しています。ある福祉施設レイヤーで「九州7県のまま」という前提で作業を進めようとしたところ、実測したら既に42都道府県まで拡大されていたことが分かり、記載を直前で書き換えました。しかもその直後、別の監査で一部データにライセンス上の問題が見つかり、件数そのものを一時的に公開しない、という判断に切り替わりました。「実測せずに前の記載を信じて書く」ことの怖さを、身をもって学んだ出来事です。
2. 同じデータセットの中でも、レイヤーによって拡大できる範囲が違う
PLATEAU 3D都市モデルは、建物の位置・高さ・用途といった「形状・属性」データそのものは全国265自治体まで拡大できています。ところが、建物1棟ごとの地震シナリオ別倒壊確率は、震度メッシュの算出という別の重い計算処理が必要で、こちらは九州27自治体・約196万棟のまま据え置きです。
実はこの2つを同じ範囲として扱ってしまい、8月16日のデータ更新履歴に「倒壊確率レイヤーも同じ範囲に対応しています」と誤って書いてしまいました。5日後の8月21日に気づいて訂正しています。同じPLATEAUという1つのデータソースの中でも、「形状データ」と「そこから計算する二次データ」ではスケールする難易度がまったく違う、ということを身をもって学んだ形です。間違いを消して何もなかったことにするのではなく、訂正の経緯ごと更新履歴に残す判断をしました。
似たようなことは地価データでも起きていました。地価公示は全国47都道府県まで拡大できていた一方、都道府県地価調査は2025年分・九州7県のみで、2026年分はそもそも存在しません。同じ「地価」というカテゴリの中でも、公示と調査で全国化の進み方が違うため、1行で束ねて書くと誤解を招くと判断し、2行に分けて記載しています。
3. 表記の不整合という、地味だけれど終わらない作業
都市計画決定GISデータの出典表記は、生成元のJSONファイルの中に4箇所、微妙に異なる書き方(「国土交通省 都市計画決定GISデータ」「各自治体 都市計画決定情報」など)で残っていました。九州7県のときは1箇所直せば済んでいたような表記ゆれが、全国対応で参照範囲が広がるにつれ、あちこちのファイル・あちこちの節に散らばって顔を出すようになります。しかもLPの一部はデプロイ時にキャッシュされるため、表面だけ直しても次回デプロイで巻き戻ってしまい、生成元のデータファイルまで遡って直す必要がありました。
農地区画(筆ポリゴン)の件数表示も、実データとの突き合わせをあらためて行ったところ、表示されていた件数に誤りがあることが分かりました。データ自体の収録範囲が変わったわけではなく、表示件数を実データに基づき約2,647万件(41都道府県)へ是正しています。件数を1つ書くたびに、それが本当に実データと一致しているかを疑ってかかる姿勢が、全国化した後は一段と重要になったと感じています。
詰まったら官公庁に聞く
九州7県だけを見ていた頃は、疑問があれば各自治体の窓口や公開資料を読み込めば済むことがほとんどでした。全国を相手にすると、確認先も国土地理院・国土交通省本省・農林水産省・法務省・各都道府県庁と、階層も窓口も一気に増えます。今回、立地適正化計画区域(鳥取県・沖縄県のA55データが今後公開される見込みがあるか)と旧版地形図(仙台・京都・大阪など未収録地域の追加見込み)について、それぞれの所管窓口へメールで確認を入れました。
正直に書くと、返ってくる回答はたいてい「現時点で未定」「順次整備中」といった、こちらが期待するほど具体的なものではありません。それでも、当てずっぽうで「もうすぐ公開されるはず」とLP文言を先走らせるよりは、確認できた事実だけを正直にnote欄へ書く方がずっと安全です。問い合わせて分かったのは「まだ分からない」ということそのものだったりしますが、それも含めて記録しておく価値はあると思っています。分からないことを分からないと書くために、まず聞きに行く。地味ですが、これも汗をかく仕事の一部です。
広がるほど、確認は掛け算で増える
正直な実感として、全国対応が進むほど、1つの修正にかかる時間は明らかに伸びています。九州7県時代なら、1つの不具合は1つのファイルの1箇所を直せば終わっていました。今は、同じ文言が「都道府県別のデータソース一覧」「更新履歴」「お知らせ」「業種別ソリューションページ」「日英2言語」といった複数の面に散らばっており、1つを直したつもりでも別の面に古い記述が残っている、ということが頻繁に起こります。回帰確認も、九州7県×レイヤー数だった頃に比べ、47都道府県×レイヤー数×掲載面数という掛け算になり、確認そのものに要する時間は増える一方です。
スピードが落ちている感覚は、チームとしても否定しません。ただそれは、対象が広がったことの当然の帰結であり、質を落とさずに広げようとしている証拠でもあると捉えています。件数・都道府県数という量の面でも、出典表記の統一やデータ調達ポリシーの明文化という質・ガバナンスの面でも、MAPRISEは確実に前へ進んでいます。
誰の、どんな仕事に効くのか
技術の裏側の話だけで終わらせず、今回全国対応・新規掲載したデータが、実際にどんな業務に効きそうかも書いておきます。
不動産鑑定士・不動産仲介: 鑑定評価書情報が全国47都道府県258,214件に拡大したことで、これまで一部地域の物件でしか使えなかった「同一標準地に対する2名の鑑定士の独立評価」「比較・収益・原価の三方式評価額」を、全国どの物件の査定でも参照できます。他エリアの類似案件との比較事例として、評価の客観性を裏付ける材料に使えそうです。
金融機関の融資審査・担保評価担当: 登記所備付地図・筆ポリゴンが全国対応したことで、遠隔地にある担保不動産の筆界・形状を、現地に行く前に机上でスクリーニングできます。鑑定評価書の全国化とあわせ、担保評価の一次チェックの効率化に貢献できる可能性があります。
土地家屋調査士・測量士: 登記所備付地図と、今回新規掲載した旧版地形図(昭和戦前期5万分の1)を重ねて見ることで、現地調査に入る前に、土地の成り立ちや旧河道・埋立地といった地歴を全国どこでも下調べできます。液状化リスクの手がかりとして旧版地形図を参照する実務は既に一般的で、そこに全国対応のレイヤーとして加わる意味は小さくないと考えています。
都市計画コンサルタント・自治体の都市計画担当: 立地適正化計画区域が全国45都道府県分見られるようになったことで、自分の担当エリアの計画を、他の自治体の居住誘導区域・都市機能誘導区域の設定と横並びで比較検討できます。コンパクトシティ政策のベンチマーキングに使える場面がありそうです。
損害保険の引受・査定担当: 旧版地形図や、既存の浸水想定区域・地盤ボーリング柱状図といったレイヤーを組み合わせることで、地震・水災保険の引受査定における参考情報の1つとして活用できる可能性があります(正式な地盤調査や公的なハザードマップに代わるものではありません)。
再エネ・林業関連事業者: 太陽光発電設備(FIT認定)の全国データと、国有林(小班・林道)の全国データを重ねることで、遊休地や林地の活用可能性を検討する際の一次スクリーニングに使える可能性があります。
不動産デベロッパー: 開発予定地が立地適正化計画の居住誘導区域・都市機能誘導区域に含まれるかどうかは、容積率の緩和や各種補助金の対象可否に関わる重要な判断材料です。全国対応により、これまで見られなかった候補地でも同じ視点でのスクリーニングが可能になりました。
弁護士・司法書士: 相続・境界紛争などで土地の権利関係を確認する場面において、登記所備付地図の全国対応は、案件のあるエリアを問わず予備調査の効率化に役立つ可能性があります。
いずれも、MAPRISE上のデータは公的機関の証明機能を持つものではなく、正式な鑑定・測量・登記手続きに代わるものではありません。あくまで机上での事前調査・スクリーニングを効率化する参考情報としての位置づけです。
おわりに
「全国対応、完了しました」と胸を張って言える日は、正直まだ先だと思っています。今回のように、公開してから訂正することもありますし、原典データそのものが存在しないという壁にもぶつかります。それでも、そのままN増しできるものと、個別に確認しなければならないものを1つずつ地道に見分けながら進めることでしか、質を保ったまま広げることはできないと考えています。この2週間、スピードは確かに落ちましたが、その分だけデータの質と量、そしてそれを正直に説明する体制は、間違いなく前に進みました。
ご意見・ご質問は info@maprise.jp までお気軽にお寄せください。
本記事で紹介した各データは、国土交通省・法務省・国土地理院・農林水産省・林野庁・経済産業省・スタンフォード大学図書館・OpenStreetMap Foundation等が公開するオープンデータを情報源としています。件数・対応都道府県数は本記事公開時点のものであり、今後の確認作業・原典データの公開状況により変動する可能性があります。業界別の活用可能性に関する記述は一般的な想定を示すものであり、個別の業務への適用可能性を保証するものではありません。
タグ: #全国展開 #データ品質 #立地適正化計画 #鑑定評価書 #出典管理 #回帰テスト
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