日本は、災害と土地利用がはじめからセットになっている国です。火山があり、地震があり、台風が来る。国土の多くは山で、川は急で、平野はわずかしかない。その限られた平地や、切り土・盛り土でつくった造成地の上に、私たちは住んでいます。先人はその教訓を石に刻んで残しました。九州7県278件の自然災害伝承碑を地図に載せた理由と、その読み方の話です。
こんにちは、MAPRISE開発チームです。
日本は、災害と土地利用がはじめからセットになっている国です。四方を海に囲まれ、火山があり、地震があり、毎年のように台風が来る。国土のおよそ3分の2は森林で、山から海までの距離が短いぶん川は急峻です。人が住める平地はもともとわずかしかなく、私たちはその限られた平野や、台地、あるいは切り土・盛り土で造成した土地の上に家を建てて暮らしています。
つまり、「災害リスクのない土地を選ぶ」という発想がそもそも成り立ちにくい。だからこそ、その土地で過去に何が起きたかを知ることが効いてきます。
石に刻んで残す、という手段
いにしえの人たちは、大きな災害が起きたとき、それを後世に伝えるために碑を建てました。紙は燃えるし、記憶は薄れるし、語り部はいなくなる。石に刻むというのは、数十年・数百年というスパンで情報を残すために、当時考えうる最も確実な手段だったのだと思います。
国土地理院は2019年6月から、こうした石碑を「自然災害伝承碑」として地理院地図で公開しています。地図記号も新たに設けられました。掲載数は全国683市区町村・2,453基(2026年7月23日時点)まで増えています。
MAPRISEでは、このうち九州7県分の278件を地図レイヤーとして追加しました。左メニューの「防災・ハザード」→「地歴・土地変遷」→「自然災害伝承碑」から表示できます。

凡例を見ると、災害の多様さがそのまま出てくる
このレイヤーで個人的にいちばん見てほしいのが、凡例です。

洪水、土砂災害、地震、津波、高潮、火山災害。ひとつの地域にこれだけの種類の災害碑が並ぶ国は、そう多くありません。しかも複数の災害種別を併記した碑もあり、その場合は先頭の区分の色だけで着色しています。実際にはもっと複合的だということです。
地図を引いて見ると、分布にも意味があります。碑は平野部の河川沿いに集中し、島原半島の山麓には火山災害の碑が並ぶ。碑が多い場所は、それだけ災害が繰り返された場所だということが、点の密度としてそのまま見えてきます。
一つ、中身を読んでみる
佐賀県神埼市の田手川沿いに、1959年建立の「災害復旧記念碑」があります。地図上の点をクリックすると、碑に刻まれた記録が読めます。

刻まれているのは、昭和28年(1953年)の西日本水害の記録です。6月25日から28日にかけて降り続いた雨は神埼市で633.7mmを観測し、この碑が立つ田手川では筑後川からの洪水が逆流するなどの影響もあって、堤防がいたるところで決壊しました。佐賀県全体の被害は、死者59名、行方不明者3名、全壊家屋319戸、流失家屋108戸、半壊家屋4,425戸、床上浸水37,895戸、床下浸水38,053戸。
床上・床下あわせて7万戸を超えています。これが70年ほど前に、同じ場所で実際に起きたことです。
正常性バイアスに、事実で抗う
災害は忘れた頃にやってくる、とよく言われます。厄介なのは、忘れるだけでなく、忘れていることに気づけないことのほうです。
- 自分だけは大丈夫だろう
- まさか、ここまで水は来ないだろう
- 過去に起きていないのだから、今後も起きないだろう
こうした心の動きは正常性バイアスと呼ばれ、誰にでも働きます。意志が弱いからではなく、そういうものとして人間ができています。
だとすれば、意志で抗おうとするより、具体的な事実をひとつ置いておくほうが有効です。「この川は70年前に決壊して、床上浸水が3万7千戸出た」という一文は、「大雨に注意しましょう」という一般論よりずっと強い。碑はまさにその一文を、その場所に立てて残してくれています。
だから、もし近くを通ることがあれば、ぜひ実物を見に行ってみてください。地図の点をクリックして読むのと、風雨にさらされた石の前に立って読むのとでは、入ってくるものが違います。あれは、先人が後世を生きる私たちに宛てて書いた手紙です。
実務で使うときに
不動産のデューデリジェンスという文脈でも、伝承碑は使いどころがあります。ハザードマップは「想定」を示しますが、伝承碑は「実際に起きたこと」を示します。この2つは役割が違うので、重ねて見る価値があります。
MAPRISEでは洪水・土砂災害・津波・高潮の各浸水想定区域と同じ「防災・ハザード」グループに置いているので、想定区域を表示した上に碑を重ねる、という見方ができます。想定区域の縁ぎりぎりに碑が立っていたら、その想定は一度疑ってみる価値があるかもしれません。
注意点
このデータを使ううえで、2つ知っておいてください。
掲載は市区町村の申請に基づくものです。 国土地理院が全国を調査して回っているわけではなく、各自治体が管内の碑を把握して申請する仕組みです。したがってすべての碑を網羅しているわけではありません。地図に点がないことは、そこで災害が起きなかったことを意味しません。申請が進んでいない自治体では、実在する碑が載っていない可能性があります。
アイコンの位置は概略です。 測量成果ではないため、実際に現地を訪ねる際は多少のずれを見込んでください。
出典:国土地理院「自然災害伝承碑」データを加工して作成。被害の記録は各碑の碑文および国土地理院の掲載情報によります。
タグ: #自然災害伝承碑 #防災 #地歴 #国土地理院 #九州
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📝 「まさか、ここまでは来ない」と思う前に ― 自然災害伝承碑という、先人からの手紙 日本は、災害と土地利用がはじめからセットになっている国です。火山があり、地震があり、台風が来る。国土の多くは山で、川は急で、平野はわずかしかない。その限られた平地や、切り土・盛り土でつくった造成地の上に、私たちは住んでいます。先人はその教訓を石に刻んで残しました。九州7県278件の自然災害伝承碑を地図に載せた理由と、その読み方の話です。 https://maprise.jp/ja/blog/denshouhi-monuments/ #自然災害伝承碑 #防災
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🆕 New on the MAPRISE blog. 《Before You Think "The Water Won't Reach Here" — Disaster Monuments as Letters From the Past》 In Japan, disaster and land use have always come as a package. Volcanoes, earthquakes, typhoons. Most of the country is mountains, the rivers are steep, and flat land is scarce. We live on that scarce flat land, or on ground we cut and filled to make. Earlier generations carved what happened into stone. Here is why we put 278 natural disaster monuments across Kyushu on the map, and how to read them. 👉 Read the full post: https://maprise.jp/en/blog/denshouhi-monuments/ #Disastermonuments #Disasterprevention #Landhistory #GSI #Kyushu