2026年8月の千葉豪雨と、9月の台風25号による印旛沼周辺の堤防決壊。報道で伝えられた浸水地域を、明治期の低湿地、地質、標高、国の洪水・内水の浸水想定と見比べ、ハザードマップの精度と、私たちの地図の課題を確かめました。
こんにちは、MAPRISE開発チームです。
2026年8月の千葉豪雨、そして9月の台風25号による印旛沼周辺の堤防決壊で、お亡くなりになった方々のご冥福を心よりお祈りいたします。ご家族やご友人を亡くされた方々に、謹んでお悔やみを申し上げます。また、いまなお浸水の影響が続く地域で、不自由な暮らしをされている皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
この記事の目的
この記事には、2つの目的があります。
- 防災への啓発。 被害の大きかった場所が、もともとどのような土地だったのかを、地図で確かめます。
- 公表されているハザードマップとの比較。 国や自治体が公表している洪水・内水の浸水想定と、実際に報じられた浸水地域を見比べ、その精度を確かめます。
あわせて、MAPRISEの地図レイヤーを使うと、土地の成り立ちからどこまで読み取れるのか、また私たちの地図にどのような課題があるのかも、正直にお伝えします。
公共報道から確認できる被害の概要
今回の千葉の浸水は、性質の異なる2つの災害でした。以下は、千葉県の発表と報道に基づく概要です。数値は集計の時点や出典によって異なります。
| 千葉豪雨(都市型・内水) | 台風25号(印旛沼周辺) | |
|---|---|---|
| 時期 | 2026年8月13日〜14日 | 2026年9月22日〜 |
| 主な浸水地域 | 千葉市中央区(村田町、蘇我、要町)、稲毛区、佐倉市(田町)、船橋市、大網白里市(大網駅周辺) | 成田市(船形干拓、下方)、印旛郡栄町(酒直)、印西市、佐倉市 |
| 雨量・水位 | 千葉市で1時間115mm、24時間367mm | 印旛沼の水位は5.04mと、報道で観測史上最高とされています |
| 被害の規模 | 死者13人、浸水は報道で4,100棟余り(NHK、8月24日) | 住宅浸水は884棟以上(千葉県、9月24日の暫定値)、成田市と栄町で約5平方キロメートル(推定)の浸水と報じられています |
| 特徴 | 道路、アンダーパス、地下の電気設備などの内水氾濫。村田川など河川の氾濫も確認されています | 北印旛沼の堤防が約100m決壊したほか、角川、長門川の堤防も一部が決壊しました |
印旛沼の県管理堤防の決壊は、1969年の事業完成以来初めてと報じられています。決壊の箇所数は、千葉県の発表では3か所(北印旛沼、角川、長門川)、報道では3〜4か所と、数え方に差があります。また、発生から2週間たっても浸水が解消しない地域があると、10月11日付の報道が伝えています。
比較の進め方と、先にお伝えしておきたいこと
MAPRISEの地図で、次の4つの視点から、報じられた浸水地域の土地を見てみます。
- 明治期の状態(レイヤー「明治期の低湿地」)
- 地質(「地質図(シームレス)」「治水地形分類図」)
- 標高(「色別標高図」)
- ハザードマップ(「洪水浸水想定(計画規模・想定最大規模)」「内水浸水想定」)
ご注意ください。 今回の比較は、報道で伝えられた地名と、地図上の色や形を、目で見比べた定性的な比較です。実際の浸水範囲(国土地理院などが公表する浸水推定図)を、地図データとして重ねて面積を比べたものではありません。正確な重なりの割合を示すものではない点を、ご承知おきください。
1. 明治期の状態 ― 印旛沼は、いまより広く、周囲は湿地でした
まず、印旛沼の周辺を広く見ます。明治期の低湿地のレイヤーを重ねた画面です。

水色は明治期の河川・水路・水域、緑色は湿地・草地、黄色は水田などです。印旛沼の周囲や、利根川沿い、成田市の北側に延びる谷が、広く低湿地として表示されています。
次に、堤防が決壊した北印旛沼と栄町の周辺を拡大します。

現在の北印旛沼のまわりには、堤防で囲まれた格子状の田が広がっています。この画面では、その大部分が、明治期には水域や湿地・草地であったことが分かります。いま田んぼや住宅地になっている場所の多くは、もとは沼や湿地だった、ということです。
千葉市中央区の村田町周辺も、同じ視点で見てみます。

陸側は一面の黄色(水田)で、現在、工場や貨物駅が並ぶ海側は、明治期には水域でした。8月の豪雨で被害のあった村田町は、かつての水田地帯の上に、市街地が広がった場所であると読み取れます。
佐倉市の田町(国道296号)付近は、どうでしょうか。

鹿島川に沿って、湿地・草地と水田が帯のように続いています。川沿いの低地が、もとから水の集まる場所だったことが見て取れます。
2. 地質 ― 浸水した低地は、新しい堆積物でできています
印旛沼周辺の地質図(産総研のシームレス地質図)です。

淡い青色の部分が低地、淡い緑色の部分が台地です。印旛沼や長門川、利根川に沿って、低地が入り組んで広がっています。低地には「H」で始まる凡例記号が、台地には「Q3」で始まる記号が見られます。これは、完新世(約1万年前以降)と、更新世後期の堆積物に、それぞれ対応するものと考えられます。
地質図をクリックして、報じられた地域の地点を実際に確認しました。栄町、千葉市中央区、大網白里市、佐倉市、成田市北部の低地の5地点では、いずれも**「谷底平野・山間盆地・河川・海岸平野堆積物」、形成時代は新生代第四紀の完新世**と表示されました。比較的新しい時代にできた、水で運ばれた堆積物の上にある土地です。
もう一つ、治水の観点で地形を分類した「治水地形分類図」も見てみます。

北印旛沼の周りは、後背湿地(緑色)と、干拓などによる人工地形(斜線)で占められています。後背湿地は、川の氾濫のときに水がたまりやすい土地です。沼の北西側には、旧河道を示す青色の帯も見えます。一方、周囲の台地・段丘は、高いところに分布しています。
3. 標高 ― 沼の周りは、台地より30mほど低い平地です
色別標高図で、北印旛沼周辺を見てみます。青緑色が低く、黄緑色が高い場所です。

沼の周囲は、ほとんど起伏のない青緑色の平地です。東側の台地とは、はっきりと境目があります。
代表的な地点の標高を、国土地理院の標高APIで確認しました(概数です)。
| 地点 | 標高の目安 |
|---|---|
| 栄町、長門川沿いの低地 | 約1〜2m |
| 北印旛沼の西岸の干拓地 | 約3m |
| 龍角寺付近の台地 | 約32m |
| 成田市の台地 | 約34m |
| 千葉市中央区 村田町 | 約2m |
| 千葉市中央区 浜野駅付近 | 約3m |
低地は1〜3mほど、台地は30mを超えています。同じ町の中でも、低地と台地の高低差は30m前後あり、水害のリスクはまったく違うことが、数字からも分かります。
千葉市の村田町周辺も、同様に、ほとんど起伏のない平地です。

4. ハザードマップとの比較
最後に、国が公表している洪水浸水想定区域(MAPRISEでは、国土交通省のハザードマップポータルサイトのデータを表示しています)と、報道を見比べます。
印旛沼周辺:浸水地域は、想定区域とおおむね重なって見えます
まず、広域で、洪水浸水想定(想定最大規模)です。

北印旛沼、西印旛沼、長門川、利根川沿いの低地、成田市北側の谷が、広く浸水想定の区域に入っています。成田市、栄町、印西市の低地部で浸水したという報道と、おおむね重なって見えます。
北印旛沼と栄町の周辺を拡大します。まず、想定最大規模です。

次に、より発生頻度の高い雨を想定した計画規模です。

計画規模でも、沼の周囲の低地は、ほぼ全域が想定区域に入っています。この地域は、「めったにない大雨」ではなく、より頻度の高い大雨でも、浸水が想定されていたことが分かります。これは、1〜3の視点で見た、湿地だった土地、新しい堆積物、標高の低さと、整合した結果です。
ただし、堤防が決壊する場所と時刻、そのことを住民にどう伝えるかは、浸水想定区域図だけでは分かりません。千葉日報は、決壊の情報が千葉県から成田市と栄町に迅速に共有されず、避難に混乱が生じたと報じています。地図で「危ない場所」を知っておくことと、決壊のような刻々と変わる情報を届ける仕組みは、別の課題であると考えられます。
千葉市:河川の想定だけでは、都市型水害は捉えきれません
千葉市中央区の村田町周辺は、どうでしょうか。まず、想定最大規模です。

想定最大規模では、陸側のほぼ全域が、0.5〜3m程度の浸水想定の色で覆われています。これに対して、計画規模は、次のとおりです。

同じ範囲で、計画規模は、浸水想定の色がまったく出ません。川があふれる計画規模の雨では浸水しない想定でも、想定最大規模では広く浸水する、ということです。 8月の豪雨は、まず道路やアンダーパスなどの内水氾濫が中心でした(村田川の氾濫も確認されています)。河川の洪水想定だけでは、都市の街なかで起きる内水氾濫の危険を読み取りにくい、と考えられます。
内水の想定と、報じられた「想定区域の外での浸水」
街なかの内水氾濫については、MAPRISEにも「内水浸水想定」のレイヤーがあります。ところが、今回撮影した千葉市の範囲では、表示がありませんでした。

これは、MAPRISEの内水浸水想定のレイヤーが、収録している市区町村に限りがあるためです(レイヤーの説明にも、データのない地域が内水リスクなしを意味するものではない、と記載しています)。一方で、千葉市は、1時間153mmを想定した雨水出水(内水)の浸水想定区域図を公表していると、東京海上ディーアールのコラムが紹介しています。千葉市の内水の想定は、MAPRISEで確認できない状態にあります。これは、私たちの課題です。 今後、収録の拡大を検討してまいります。
公表されている想定の精度については、次のような指摘があります。
- 東京海上ディーアールの分析では、千葉市は、想定最大規模の内水の想定区域の外でも、浸水が報告されました。実際の雨の降り方や強さが、想定と異なったことが理由と考えられています。千葉市の1時間降水量は115mmで、市の雨水対策の基本方針が想定した65.1mm(整備重点地区)や53.4mm(一般地区)の約2倍でした。
- 大網白里市では、南白亀川水系の洪水浸水想定区域と、実際の浸水範囲が、外房線より南側ではおおむね一致しました。一方、北側は、想定区域の外でした。想定されていない内水氾濫や支川の氾濫が、重なったと考えられています。
- ウェザーニューズの分析(約2万件の被害報告)では、被害にあった人の約2人に1人が、洪水浸水想定区域の外にいたとみられると報じられています。ただし、分析の方法は公表されておらず、区域外かどうかの判定方法は分かりません。
佐倉市の田町付近

8月の豪雨で、国道296号でタクシーが冠水した佐倉市の田町は、鹿島川沿いの想定区域の中にあります。一方で、同じ佐倉市内でも、台地の上は想定区域から外れています。ここでも、地形と想定が対応しているように見えます。
比較から見えたこと
- 「土地の来歴」は、浸水リスクの手がかりになる。 明治期の湿地・水域、完新世の堆積物、標高の低さは、報じられた浸水地域と、よく重なって見えました。特に、印旛沼の干拓地では、4つの視点がそろって同じ方向を指していました。
- 国の洪水浸水想定は、河川の氾濫については、おおむね妥当に見えた。 印旛沼周辺では、計画規模でも想定区域に入っていました。
- 都市型の内水氾濫は、想定だけでは捉えきれない。 千葉市では、想定を上回る雨や、想定されていない形の浸水が起きたとされています。
- 想定の外でも、低い土地には浸水の可能性がある。 想定区域の外であることは、安全を意味しません。
- MAPRISEにも課題がある。 内水浸水想定は、千葉市を収録できていません。
暮らしの中でできること
- ご自宅や職場の土地を、浸水想定の色だけでなく、標高や、もとの土地利用(明治期の低湿地)、地形分類もあわせて見てみてください。
- 想定区域の外でも、周囲より低い場所、アンダーパス、地下空間には、水が集まります。
- 大雨のときは、自治体の避難情報と、河川の水位などのリアルタイムの情報を、あわせてご確認ください。ハザードマップは、「普段から備える」ための地図です。
- 防災の手順は、地域ごとに異なります。お住まいの自治体が公表するハザードマップや防災情報を、必ずご確認ください。
限界についても、正直にお伝えします
- 本記事の比較は、報道の地名と地図を見比べた定性的なものです。実際の浸水範囲を地図データとして重ねた分析ではありません。
- 「明治期の低湿地」は、国土地理院が明治期の旧版地図から作成したもので、位置のずれを含む場合があります。主要な平野部のみの提供です。
- 地質図、治水地形分類図、色別標高図は、土地の成り立ちを知る目安です。個別の地点の安全を保証するものではありません。
- 洪水浸水想定は、国土交通省のハザードマップポータルサイトのデータをもとにしており、想定した雨の降り方などの条件の下での想定です。最新の情報は、各自治体、国土交通省の公表資料でご確認ください。
- 被害の数値は、集計の時点や出典によって異なります。最新の公式発表をご確認ください。
- 決壊の箇所数や経緯は、調査・検証の途上にあります。今後の公式発表で更新される可能性があります。
おわりに
被害にあわれた方々の、一日も早い生活の再建を、心よりお祈りいたします。今回の災害を、「想定の外でも起こりうる」ことを学ぶ機会とし、土地の成り立ちから防災を考える手がかりとして、MAPRISEの地図が役立つよう、取り組んでまいります。
ご意見・ご質問は info@maprise.jp までお気軽にお寄せください。
出典
- 北印旛沼の堤防決壊について/千葉県
- 住宅浸水880棟超 印旛沼など氾濫で―住民「どこから手着ければ」・千葉大雨(時事ドットコム)
- 台風25号の影響で印旛沼の堤防3か所が決壊し、成田市など広範囲で浸水(ライブドアニュース)
- 【独自】決壊、千葉県が迅速共有せず(千葉日報オンライン、Yahoo!ニュース)
- 【特集】千葉・印旛沼では堤防決壊 水害から28年(TeNYテレビ新潟、Yahoo!ニュース)
- 【千葉・印旛沼】堤防決壊で大規模冠水!浸水被害と国道464号通行止め(たろ速)
- 千葉豪雨 新たに2人の死亡確認 死者13人に 浸水被害は2314棟(NHK)
- 千葉豪雨 13人死亡 浸水被害4139棟 今も43人が避難(NHK)
- 令和8年8月千葉豪雨(Wikipedia)
- 令和8年8月千葉豪雨―浸水被害の概況と都市型水害への備え(東京海上ディーアール)
- 令和8年8月千葉豪雨|2人に1人が想定区域外の教訓(ふくしまの防災 HIH ヒカリネット)
- 地図・データ:標高API(国土地理院)(MAPRISE で加工して表示しています。各データの提供元とライセンスはデータソース一覧に、地図で見られるデータはレイヤー図鑑にまとめています)
本記事の地図は、MAPRISEの「明治期の低湿地」(国土地理院)、「地質図(シームレス)」(産業技術総合研究所)、「治水地形分類図」(国土地理院)、「色別標高図」(国土地理院)、「洪水浸水想定」「内水浸水想定」(国土交通省 ハザードマップポータルサイト)を表示したものです。被害の概要は、千葉県の発表と報道機関の記事に基づいており、数値は集計の時点により変わります。浸水範囲と地図レイヤーとの比較は、地名にもとづく定性的なものです。
タグ: #千葉県 #印旛沼 #千葉豪雨 #台風25号 #ハザードマップ #洪水浸水想定 #内水氾濫 #明治期の低湿地 #地質 #標高 #防災
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