横須賀線の新駅とタワーマンションで、いちばん注目された街のひとつ、武蔵小杉。2019年の台風では浸水もニュースになりました。標高図・陰影・地形分類・戦後すぐの空中写真・国の洪水浸水想定を並べて、この土地の成り立ちと、対策が進んだ今の立地を整理します。
こんにちは、MAPRISE開発チームです。
2010年に横須賀線の新駅ができ、駅のまわりには高層のタワーマンションが次々に建ち、「住みたい街」の代表格としてもてはやされた街があります。川崎市中原区の武蔵小杉です。その後、2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)では、駅周辺の浸水が連日ニュースになりました。
あれから、約7年が経ちました。この記事では、MAPRISEが使っている国土地理院の標高データなどを並べて、この土地がどんな場所なのか、当時の浸水は何が原因だったのか、対策はどこまで進んだのか、そして不動産の立地として、あらためてどう見ればよいかを整理します。印象や噂ではなく、公的な資料と数字で見ていきます。
先に結論を3つ
- 駅の標高は約7mです。 周辺1km圏の大半は、標高6〜9mに収まる、ほぼ平らな低地です。駅だけが特別に低いわけではなく、多摩川がつくった広い平地の上に街が広がっています。一方、約3km離れた日吉の台地は標高約24mで、同じ沿線でも、高さの違う場所が近くにあります。
- 2019年の浸水は、堤防の決壊ではありませんでした。 川崎市の検証では、多摩川の水位が上がり、雨水を川へ流す「排水樋管(はいすいひかん)」から下水道を通って水が逆流したことが主な原因とされています。市は、ゲートの改良、水位計の設置、遠方制御、ポンプ車の導入、バイパス管の整備などを進めました。
- 国の洪水浸水想定(想定最大規模)では、駅周辺の大半が「0.5〜3m」の区分です。 想定される水の深さを知ったうえで、設備の位置や避難の計画を考えて選ぶ、**「知って備える立地」**と捉えるのが、現実的だと考えます。
この土地の歴史:街道の宿場から、工場、そして駅前へ
まず、時間をさかのぼってみます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 江戸時代 | 中原街道(江戸と相模を結ぶ道)の宿場として栄えた。地名の「小杉御殿町」は、徳川秀忠が仮御殿(小杉御殿)を建てたことに由来する(川崎市の資料による) |
| 1926年 | 東急東横線(当時は東京横浜電鉄)が、丸子多摩川〜神奈川間で開通 |
| 1927年 | 南武鉄道に「グラウンド前停留場」が開業。名前は、駅前にあった横浜正金銀行のグラウンドに由来する |
| 1930年代後半 | 電機・電子関連を中心とする工場が相次いで進出。1939年に東急の「工業都市駅」が開業 |
| 1944〜1953年 | 南武線が国有化され「武蔵小杉駅」に。1953年に、工業都市駅との中間へ移転して統合 |
| 1980年 | 品鶴線(現在の横須賀線の線路)が旅客化 |
| 2009年 | 旧・横浜正金銀行グラウンド跡に、パークシティ武蔵小杉が竣工 |
| 2010年 | 横須賀線の武蔵小杉駅が開業(3月13日) |
| 2013〜2014年 | 駅前に、大型の商業施設が相次いで開業 |
| 2019年 | 相鉄線との直通運転が始まる(11月30日) |
次の図は、**1940年代後半に米軍が撮影した空中写真(左)と、現在の写真(右)**です。赤い輪が、現在の武蔵小杉駅の位置です。

昔の写真を見ると、駅の西側には、水田や畑のような、整った区画が広がっています。駅の北側には古い町並みが密に広がり、工場とみられる大きな建物も点在します。多摩川の河原は、現在よりずっと広く見えます。この一帯は、もともと「川のそばの平らな土地で、農地と街道の町、そこに工場が建っていった場所」だったことが分かります。
そして、2009年以降に、工場や企業のグラウンドの跡地が、住宅と商業施設に生まれ変わりました。駅の乗降人員は、東急が2025年度で1日約21万人(東横線と目黒線の合計)、JR東日本が2024年度で1日約11万人(乗車人員)です。交通の結節点として、大きく育った街です(乗降人員は、駅のページに載っている数字によります)。
標高で見る:駅は約7m、日吉の台地とは約17m違う
ここからは、標高です。国土地理院の5mメッシュ標高(DEM5A)から、色分け等高線図に近い図を描きました。標高2〜30mは、1mごとに等高線を引いています。色は、青いほど低く、茶色いほど高いことを示します。

図から、次のことが読み取れます。
- 駅のまわりは、淡い黄緑〜水色(標高6〜8m)の、ほぼ平らな土地です。
- 駅の北西側(小杉御殿町のほう)は、やや高い(8〜10m)帯になっています。
- 多摩川に近づくと、標高3〜5m以下の青い帯になります。堤防の外側は河川敷です。
- 左下の隅(日吉)は、台地に上がって一気に茶色(標高が高い)になります。
日吉駅から、元住吉駅、武蔵小杉駅、新丸子駅を通って多摩川まで、折れ線で標高を測った断面が次の図です。

| 場所 | 標高(約) | メモ |
|---|---|---|
| 日吉駅付近 | 24m | 台地の上 |
| 元住吉駅 | 6.6m | 平らな低地 |
| 武蔵小杉駅 | 6.9m | 駅の位置の周辺5mメッシュの平均 |
| 新丸子駅 | 6.5m | |
| 小杉御殿町 | 8.7m | 街道筋のやや高い帯 |
| 多摩川の堤防の頂 | 約9m | この断面での値 |
| 多摩川の河川敷(水面の近く) | 約0〜3m | 水面は標高データに含まれないため、河川敷の値 |
駅の周辺を数字にまとめます。
- 駅から半径500m以内の標高は、6.0m〜8.1m(10〜90パーセンタイル)、中央値は7.3mです。
- 半径1km以内では、5.7m〜8.6m、中央値は7.5mです。
- 半径1km以内のうち、駅の標高より低い土地は、約3割です。駅は、周囲の中央値のすぐ近くにあります。
つまり、武蔵小杉駅は、周りに比べて突出して低い場所にあるわけではありません。「駅のまわりの平らな低地全体が、多摩川の氾濫原」という捉え方が、実際の地形に近いと考えられます。
土地の成り立ち:街道筋の「微高地」と、駅の位置
国土地理院の土地条件図(数値地図25000)で、地形の分類を重ねてみました。黄色は「河川沿いの微高地(自然堤防など)」、オレンジは「台地」です。

黄色の帯は、小杉御殿町から今井、木月方面へ北西から南東に延びる微高地です。この帯は、かつての川の流れがつくった、周囲より少し高い土地だと考えられます。中原街道は、この高まりの筋を通っています。昔の人は、水に浸かりにくい高い筋を道にして、宿場をつくったと考えられます。
武蔵小杉駅は、この微高地の**すぐ東(やや低い側)**にあります。駅前の再開発は、広く空いた工場や、グラウンドの跡地に進んだため、結果として、微高地より少し低い土地に、大きな街ができたことになります。
なお、報道には「武蔵小杉は多摩川の旧河道にある」という説明もあります。どの帯を旧河道と見るかは、資料によって異なる可能性があります。この記事では、国の土地条件図に書かれている範囲(微高地・台地)にとどめて、旧河道かどうかの断定は避けています。
2019年の台風19号で、何が起きたのでしょうか
2019年10月12日から13日にかけて、台風19号(令和元年東日本台風)が関東を通過しました。田園調布(上)観測所などで、多摩川の水位が、計画高水位を超える過去最高を記録しました。このとき、武蔵小杉の駅周辺は浸水し、一部のタワーマンションでは、地下の電気設備が水に浸かって、停電や断水が起きました。
川崎市上下水道局の検証(2020年4月8日付)では、次のように整理されています。
- 浸水は、堤防の決壊や、水があふれて(越水して)起きたものではありません。
- 多摩川の水位が高くなり、雨水を川へ流す排水樋管から、下水道を通って川の水が逆流しました。さらに、川へ出ていけなくなった雨水(内水)も、あふれました。
- 山王排水樋管の場合、逆流は10月12日14時過ぎから13日3時40分ごろまで続きました。浸水した水の70%以上が、多摩川からの逆流水だったとされています。
- 10月12日15時にゲートを閉じていれば、被害は、ごく狭い範囲にとどまったという試算も示されています。ただし、予報どおりの雨の場合は、ゲートを閉めると、街に降った雨が排水できなくなるため、判断が難しいことも、あわせて記されています。
つまり、**「川があふれた」のではなく、「雨水を川に流す出口を、川の高い水位がふさいでしまった」**という仕組みです。多摩川沿いの低い土地では、同じ構造が、ほかの街にもあります。
対策は、どこまで進んだのでしょうか
川崎市は、次の対策を実施してきました。
| 時期 | 対策 |
|---|---|
| 2020年7月まで | 排水樋管ゲートの改良、水位計などの観測機器の設置、操作手順の見直し、遠方からの制御、排水ポンプ車の導入(短期対策) |
| 2023年8月 | 山王排水樋管の周辺で、雨水を別の幹線へ流すバイパス管と、逆流防止弁を整備 |
| 継続 | 排水樋管のゲート操作や、ポンプ車による排水作業の訓練 |
| 中長期 | ゲートを閉めたときでも、浸水を減らせる下水道施設の整備を進める方針 |
川崎市は、2019年の台風と同じ雨、同じ多摩川の水位の条件で、対策の効果を試算しています(2024年11月の市議会 環境委員会の資料)。山王排水樋管の周辺地域では、次のとおりです。
| 山王排水樋管の周辺 | 床上浸水相当(深さ50cm以上) | 床下浸水相当 |
|---|---|---|
| 対策前(台風当日の状況) | 約151,000㎡ | 約159,000㎡ |
| 対策後の試算 | 0㎡ | 0㎡ |
この試算では、台風19号と同じ条件であれば、浸水を防げるとされています。ほかの4つの排水樋管(宮内、諏訪、二子、宇奈根)では、床上浸水相当の面積が、44〜94%減ると試算されています。もちろん、試算は、あくまで同じ条件での結果です。想定を超える雨や水位には、備えが要ります。
ここまでが、「対策が進んだ」と言える公的な事実です。市が公表している資料を、出典にまとめておきます。
いまの浸水想定:駅周辺の大半は「0.5〜3m」の区分
次は、これから想定される水の深さです。国土交通省の洪水浸水想定区域(想定最大規模)を、地図に重ねました。多摩川では、想定しうる最大規模の雨(2日間の総雨量588mm)を条件に、堤防が壊れた場合の浸水を計算しています。1000年に1度程度の、まれな規模の雨です。

国のデータで集計すると、駅から半径500m以内の、およそ95%が「0.5〜3m」の区分、3〜5mの区分が約4%でした。多摩川に近づくほど、深くなる想定です。
ここで、2つのことを書いておきます。
- 想定最大規模は、**「まれにしか起きない、最悪級のケース」**を前提にしています。普段の暮らしの確率を表すものではありません。
- 一方で、駅周辺が「0.5〜3m」の区分にあるのは事実です。上層階の選び方、電気設備や機械室の位置、避難経路の確認が、実際の安全に直結します。
なお、宅地建物取引業法の施行規則の改正により、2020年8月28日から、重要事項説明で、水害ハザードマップ上の対象物件の所在地を説明することが義務になっています(洪水・雨水出水(内水)・高潮)。武蔵小杉の物件のご案内でも、川崎市のハザードマップ(洪水・内水)を、お客様と一緒に確認するのが基本になります。
立地を、あらためて評価します
ここまでの材料を、立地の「強み」と「備えが要る点」に分けてみます。
| 見るポイント | 強み | 備えが要る点 |
|---|---|---|
| 交通・都市機能 | 東急2路線とJR(南武線・横須賀線ほか)が交わる結節点。渋谷、横浜、品川、東京方面へ直通。駅前に商業施設が集積 | - |
| 標高・地形 | 駅周辺の標高は約7mでほぼ平ら。駅前から日吉の台地(標高約24m)までは約3km。微高地の筋が近くにある | 多摩川の氾濫原の低地で、河川が近い |
| 河川の洪水 | 国が管理する一級河川で、堤防が連続して整備されている | 想定最大規模では、大半が0.5〜3mの区分。想定は想定として、避難や上階の選び方を確認する |
| 内水・逆流 | 市が、ゲート改良、水位計、ポンプ車、バイパス管などを実施。台風19号と同じ条件の試算では、山王周辺は浸水を防止 | 想定を超える雨や水位では、備えが要る。建物側の設備の位置も重要 |
| 土地利用の履歴 | 工場やグラウンドの跡地を、まとまった規模で再開発。計画的な街づくり | 地盤は、物件ごとの調査資料で確認する |
総合すると、武蔵小杉は、「交通・都市機能の強さ」と「多摩川の低地に特有の、水への備え」を、同時に持つ立地だと考えます。弱点だけを見て敬遠するのも、強みだけを見て備えを忘れるのも、おすすめできません。数字を知って、備えを選ぶのが、ちょうどよい向き合い方です。
不動産のご提案では、たとえば次のような確認が役に立ちます。
- 電気設備・機械室・駐車場の階層(地下か、上階か。止水板や防水扉はあるか)
- 管理組合や管理会社の、水害への備え(避難計画、非常用電源、備蓄)
- 住戸の階数と、想定浸水深との関係
- ハザードマップ(洪水・内水)と、実際の標高の両方での確認
MAPRISEで見るには
MAPRISEでは、今回の図と同じ種類のデータを、地図の上で重ねて見られます。
- **背景地図の「色分け等高線図」**で、等高線の間隔を切り替えて、駅のまわりの高低差を確かめられます。
- **「洪水浸水想定・津波浸水想定」**のレイヤーで、国の想定を重ねられます。
- 背景地図の空中写真で、現在の様子を確かめられます。
物件ごとに、**「標高」「地形」「想定される水の深さ」**を並べて見ることで、立地の理解が深まります。
本記事のデータについて
- 図は、MAPRISEと同じ種類の国土地理院のデータ(標高タイル、淡色地図、土地条件図、空中写真)と、国土交通省の洪水浸水想定区域(想定最大規模)から、当社で描いたものです。MAPRISEの画面そのものではありません。
- 標高は、国土地理院の5mメッシュ標高(DEM5A)です。誤差を含みます。駅の位置は、図の上で見た概略の位置です。標高は、建物や盛土を除いた地面の高さで、実際の地盤の高さや、設備の高さを保証するものではありません。
- 洪水浸水想定は、**想定最大規模(まれな規模の雨)**の想定です。浸水の割合の集計は、国土地理院の「重ねるハザードマップ」の配色によるもので、実際の被害を予測するものではありません。最新の公式な情報は、川崎市のハザードマップ(洪水・内水)をご確認ください。
- 2019年の浸水の原因と、対策の内容は、川崎市の資料と、公開された検証によります。台風19号の検証の詳細(浸水深や範囲の数値)は、市の報告書の原文をご覧ください。対策効果の数字は、同じ条件での市の試算です。
- 空中写真は、1945〜1950年ごろに米軍が撮影したものです(国土地理院)。撮影の年や場所によって、写り方が異なります。
- 土地の歴史の記述は、下記の参考文献によるものです。微高地の成り立ち(旧河道かどうか)の断定は、していません。
- 水害ハザードマップの説明義務の対象は、洪水・雨水出水(内水)・高潮です。自治体によって、扱いが異なる場合があります。
おわりに
武蔵小杉は、街道の宿場から、工場の街、そして、タワーマンションの並ぶ街へと、短い時間で姿を変えてきました。多摩川の低地という土地の性格は、昔も今も変わりません。大切なのは、その性格を知り、市の対策や、建物の備えと合わせて、立地を見ることだと考えます。
標高や、ハザード、土地の履歴を、物件ごとに素早く確認する。MAPRISEは、そのお手伝いをしてまいります。
ご質問やご意見は、info@maprise.jp までお寄せください。
出典・参考文献
- 川崎市上下水道局「排水樋管周辺地域における今後の浸水対策の取組について(山王排水樋管周辺地域)」(環境委員会報告資料・2024年11月21日):https://www.city.kawasaki.jp/800/cmsfiles/contents/0000188/188228/sannnou.pdf
- 川崎市上下水道局「令和元年東日本台風による排水樋管周辺地域の浸水に関する検証」(2020年4月8日)の概要(パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー管理組合の公式サイトによる紹介):https://www.midskytower.com/security/p=7206
- 川崎市「排水樋管周辺地域における今後の浸水対策の取組について(宮内排水樋管周辺地域)」(2024年11月21日):https://www.city.kawasaki.jp/800/cmsfiles/contents/0000188/188228/miyauti.pdf
- 武蔵小杉駅(Wikipedia):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E8%94%B5%E5%B0%8F%E6%9D%89%E9%A7%85
- 川崎市の資料(小杉御殿町の地名の由来):https://www.city.kawasaki.jp/500/cmsfiles/contents/0000008/8745/soan-dai2bu.pdf
- このまちアーカイブス 武蔵小杉(東急沿線の歴史):https://smtrc.jp/town-archives/city/musashikosugi/p03.html
- 国土交通省「不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を事前に説明することを義務づけます」:https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000205.html
- 現代ビジネス「武蔵小杉の浸水」関連記事(地形に関する報道):https://gendai.media/articles/-/158387
- 地図・データ:標高タイル(DEM5A)・淡色地図・土地条件図・空中写真(国土地理院)、洪水浸水想定区域(想定最大規模)(国土交通省・重ねるハザードマップ)(MAPRISEで加工して表示しています。各データの提供元とライセンスはデータソース一覧に、地図で見られるデータはレイヤー図鑑にまとめています)
タグ: #武蔵小杉 #川崎市 #多摩川 #標高 #色分け等高線図 #洪水浸水想定 #ハザードマップ #土地の歴史 #内水 #排水樋管 #立地評価
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