PLATEAUの建築年から耐震基準世代を色分けできるMAPRISEの地図で、旧耐震(1981年以前)の建物が目立つ全国5地域(門司港・若松・金沢東山・京都西陣・高松)を実際にキャプチャし、その土地の歴史と重ねて読み解きます。地図の色は、街の来歴の写し絵でもあります。
こんにちは、MAPRISE開発チームです。今回は少し趣向を変えて、地図を「眺めて」みます。
MAPRISEには、国土交通省のPLATEAU(3D都市モデル)の建築年をもとに、建物を耐震基準の世代ごとに色分けできるレイヤーがあります。この色分けで全国のPLATEAU整備都市を見て回ると、旧耐震基準(1981年以前)の建物が、赤やオレンジの面として目立つ街がいくつもあります。そして、その街には、たいてい理由がありました。
今回は、実際に地図をキャプチャした5つの地域を、土地の歴史とあわせてご紹介します。
色の読み方と、先に押さえておきたい前提
旧耐震と新耐震
1981年(昭和56年)の建築基準法施行令の改正で、いわゆる「新耐震基準」が導入されました。きっかけの一つは、1978年の宮城県沖地震の被害だったとされています。旧耐震基準は震度5程度で倒壊しないことを前提とし、新耐震基準は震度6強程度でも人命に危害を及ぼす倒壊等が生じないことを目標としています。また、阪神・淡路大震災では、旧耐震基準の建築物の被害が顕著だったと、自治体の資料にも記されています。
MAPRISEの地図は、この区分に沿って建築年で次のように塗り分けます。
- 赤:旧耐震基準以前(〜1970年)
- オレンジ:旧耐震基準(1971〜1981年)
- 黄緑:新耐震基準(1982〜1999年)
- 緑:2000年基準以降
- 薄いグレー:建築年が不明
読む前に必ずお伝えしたいこと
この記事の数字と色は、あくまで参考情報です。次の点にご留意ください。
- 建築年は「年」で区切っています。 新耐震基準の適用は1981年6月1日以降の建築確認からですので、1981年の建物は、実際には旧耐震・新耐震のどちらもありえます。色は建築確認の時期そのものではありません。
- 建築年のデータは、自治体によって整備状況がまったく異なります。 今回、全国の主要な都市の代表的な地点を同じ方法で調べたところ、建築年がほぼ入っていない地点(東京の下町の各区、大阪市、名古屋市、横浜市、仙台市などの調査地点)もあれば、福岡市の博多駅周辺のように、建築年の入った建物が15%ほどにとどまる地区もありました。建築年が入っていない建物は、地図では薄いグレーで表示されます。この記事で取り上げたのは、建築年がおおむね7〜8割の建物に入っていた地域です。
- 記事中の割合は、撮影した画面の範囲に見えていた建物のうち、建築年が判明している建物を母数にしています。 地域全体の統計ではありません。
- 古い建物であることと、危険であることは同じではありません。 旧耐震でも耐震改修済みの建物はありますし、新耐震でも被害を受けた例はあります。個別の建物の耐震性能は、必ず建築士等による診断でご確認ください。
1. 門司港(北九州市門司区)― 大陸貿易の港と、その後
最初は、関門海峡に面した門司港です。

この画面では、建築年が判明した建物のうち、約75%が1981年以前でした(赤・オレンジの合計。判明率は約79%)。今回調べた中で、最も高い値です。港町や栄町の細い街区に赤い建物が密に並び、背後の斜面地にまで連なっています。
土地の歴史
門司港は、1889年(明治22年)に石炭・米・麦・麦粉・硫黄の特別輸出港に指定され、長崎税関の出張所が置かれたことから、港としての発展が始まりました。日清・日露戦争では軍需品や兵士を送り出す港となり、1914年(大正3年)には現在の門司港駅にあたる新駅舎が完成します。大陸航路の拠点として栄え、神戸・横浜と並ぶ主要港の一つに数えられたといいます。
しかし、終戦後は海外との取引が減り、港の需要は徐々に衰えていきました。1987年に旧門司三井倶楽部の解体計画が持ち上がったことを機に保存運動が起こり、1995年(平成7年)に「門司港レトロ」がオープンします。
地図とのつながり
地図に赤い建物が多いのは、繁栄した時代の街並みが、その後に大きく建て替えられないまま残ったためと考えられます。港の需要が衰えた戦後の数十年は、建物を一斉に更新する動機が生まれにくい時期でもあったはずです。もっとも、これは地図の分布から私たちが推測した読み方で、個々の建物の来歴を確認したものではありません。観光の中心である港沿いの整備された一帯の外側に、古い建物の面が広がっているという点は、地図を見ていただければ一目で分かります。
2. 若松(北九州市若松区)― 筑豊の石炭を積み出した港
次は、洞海湾を挟んで門司の反対側にあたる、若松です。

建築年が判明した建物のうち、約71%が1981年以前でした(判明率は約79%)。浜町や北浜の古い街区に加え、港側に大きな赤い面(倉庫・工場と見られる建物群)が並んでいるのが特徴です。
土地の歴史
若松は、遠賀川上流で産出された石炭の積出港として発展した町です。1763年(宝暦13年)に完成した堀川運河で遠賀川と洞海湾が結ばれ、1892年(明治25年)には若松港が築港されて、筑豊炭田の石炭を積み出すための石積護岸が今も残っています。石炭景気の最盛期にあたる昭和30年代前半には、洞海湾の入出港船は1日平均で2,100隻にのぼったと、北九州市の資料にあります。現在はその半分以下になっているとのことです。
地図とのつながり
石炭の時代に港と町が形づくられ、その後に石炭需要が縮小して工業地帯へと姿を変えていく過程で、町の中心部の建物更新が限られたことが、地図に表れているのではないかと考えられます。なお、この地区の建築年は、同じ年に集中している建物(1918年、1936年、1938年など)が目立ちます。実際の建築年が同じというより、データ整備の際に同じ年へまとめられている可能性もあり、個別の建物の年は参考値として見るのが安全です。
3. 金沢・ひがし茶屋街周辺 ― 江戸の町割りが生きる街
三つ目は、金沢のひがし茶屋街周辺です。

建築年が判明した建物のうち、約74%が1981年以前でした(判明率は約71%)。茶屋街の細い街路に沿って赤い建物が連なります。
土地の歴史
ひがし茶屋街は、1820年(文政3年)、加賀藩12代藩主・前田斉広の時代に「茶屋町」として設けられたとされています。城下に点在していた茶屋を一つにまとめて整えたのが始まりと伝えられ、石畳と木虫籠(きむすこ)の格子を持つ家並みが残り、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。
地図とのつながり
この地区の赤い建物には、保存の対象となっている歴史的な木造建築が含まれていると考えられます。つまり、ここでの「旧耐震」の多さは、必ずしも「更新が進まない課題」だけを意味しません。残そうとして残された街並みが、耐震性能の確認と改修という別の課題を同時に抱えている、とも読めます。歴史的な価値のある街並みの防災は、全国の歴史的な地区に共通するテーマではないでしょうか。
4. 京都・西陣 ― 応仁の乱から続く職人町
四つ目は、京都の西陣です。冒頭の画像もこちらです。

建築年が判明した建物のうち、約51%が1981年以前でした(判明率は約86%と、今回の地域で最も高い)。割合そのものは他の地域より低いのですが、建物の数が多く、判明率も高いため、赤い面がもっとも濃密に広がって見えます。
建物をクリックすると、建築年・耐震基準・構造などがポップアップで確認できます。

土地の歴史
西陣という地名は、応仁・文明の乱(1467年〜)で西軍の山名宗全らが陣を構えた一帯に由来します。乱ののち、離散していた織物の職工が戻って織物業が再開され、西陣織の産地として発展しました。織物の技術そのものは、5〜6世紀ごろに渡来した秦氏の一族が伝えたとされ、平安遷都後は宮廷向けの高級織物をつくる工人が集まったといいます。この一帯には京町家や路地が今も数多く残る地域として、京都市の資料でも位置づけられています。
地図とのつながり
間口が狭く奥行きの深い町家が、路地に沿って細かく並ぶ職人町の構造が、そのまま地図の細かな区画に表れています。ポップアップの例(1891年・木造・1階建て)のように、明治期の建築年が入った建物もあります。ここでも、歴史的な町並みの保全と、耐震性の向上をどう両立させるかが課題になると考えられます。
5. 高松・中心市街地 ― 空襲からの復興
最後は、高松の中心市街地(県庁周辺)です。

建築年が判明した建物のうち、約61%が1981年以前でした(判明率は約75%)。他の4地域と異なり、赤・オレンジ・黄緑・緑が入り混じっているのが特徴です。
土地の歴史
1945年(昭和20年)7月4日未明の空襲で、高松市では1,359人が亡くなり、旧市街地の約80%が焦土と化したと伝えられています。戦後は、戦災復興のための土地区画整理事業が大規模に実施され、街路が拡張・改良されました(通町では1964年に換地処分が公告されています)。
地図とのつながり
空襲で市街地の大半が失われたため、現在の建物は、戦後の復興以降に建てられたものが中心です。戦後に建てられた建物が、1960年代から1980年代にかけて世代ごとに入れ替わってきた結果として、さまざまな色が混在しているのだと考えられます。他の4地域が「古い建物が残った街」であるのに対し、高松は「一度大きく更地になったあと、世代ごとに重なって建て替えられてきた街」という、対照的な姿が見て取れます。
5地域を並べて見えたこと
| 地域 | 1981年以前の割合(建築年判明分) | 判明率 | 背景 |
|---|---|---|---|
| 門司港 | 約75% | 約79% | 大陸貿易の港・戦後の需要減 |
| 金沢・ひがし茶屋街周辺 | 約74% | 約71% | 江戸期の茶屋町・保存地区 |
| 若松 | 約71% | 約79% | 石炭積出港・工業地帯への転換 |
| 高松・中心市街地 | 約61% | 約75% | 空襲後の復興・世代ごとの建替え |
| 京都・西陣 | 約51% | 約86% | 応仁の乱以来の職人町・町家 |
(撮影した画面の範囲で、建築年が判明した建物を母数に集計。2026年10月時点のMAPRISEの表示によります。)
共通して言えるのは、旧耐震の建物が多いことには、その土地の歴史がそのまま反映されているということです。繁栄した時代の街並みが残った港町、保存された歴史的な町並み、職人町の路地、そして復興期の建物。同じ「旧耐震が多い」という色でも、その背景はそれぞれ異なります。
土地の歴史と合わせて読む意味
地歴調査は、不動産のデューデリジェンスで、その土地の過去の利用や災害履歴を確認する作業です。耐震基準別の色分けは、そこに「建物ストックの世代」という視点を加えます。
- 不動産取引:周辺の建物の世代と、地域の来歴を、説明の材料にできます。
- 金融機関:担保エリア全体の建物の世代を、リスク評価の参考にできます。
- 自治体:耐震化促進策の優先エリアを検討する、基礎資料になります。
地図で面としての傾向を掴み、気になる建物はクリックして確認し、さらに必要に応じてAIによる6シナリオの倒壊確率分析へ進む、という使い方をご用意しています。
おわりに
今回は5つの地域をご紹介しましたが、PLATEAUの整備は全国で順次進んでおり、建築年のデータが入った地域も広がっていくと考えられます。ご自身の地域や、調査中の土地を、ぜひMAPRISEの地図で見てみてください。
PLATEAU建物データは国土交通省が整備する3D都市モデルを情報源としています。耐震基準区分は建築年から機械的に区分した参考情報であり、個別建物の耐震性能を保証するものではありません。実際の耐震診断・改修の要否については、必ず建築士等の専門家にご相談ください。
参考にした外部サイト
- 荒川区 資料(新耐震基準の目標・阪神・淡路大震災での被害):https://www.city.arakawa.tokyo.jp/documents/44219/202603keikaku.pdf
- 八尾市 資料(新耐震設計基準による建築物の被害):https://www.city.yao.osaka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/661/r8taisokukeikakusiryou.pdf
- 門司税関 沿革(特別輸出港指定):https://www.customs.go.jp/moji/moji_history/moji_history.html
- 国土交通省 九州地方整備局 北九州港湾・空港整備事務所「西海岸・門司港レトロ地区」(1995年のグランドオープン):https://www.pa.qsr.mlit.go.jp/kitakyusyu/port/mojikou/index.html
- 北九州市 洞海湾・若松の歴史:https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/924_10252.html
- 国土交通省 歴史まちづくり資料(ひがし茶屋街):https://www.mlit.go.jp/toshi/rekimachi/content/001578362.pdf
- 金沢の三茶屋街(nippon.com):https://www.nippon.com/ja/japan-video/vi001002/
- 西陣(コトバンク):https://kotobank.jp/word/%E8%A5%BF%E9%99%A3-109453
- 京都市 資料(京町家):https://www.city.kyoto.lg.jp/templates/shingikai_kekka/cmsfiles/contents/0000235/235215/03_shiryou3.pdf
- 高松市 平和記念だより:https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/shinotorikumi/jinken/keihatsu/heiwa/dayori.files/dayori96.pdf
- KSB 高松空襲の報道:https://news.ksb.co.jp/article/16889260
タグ: #PLATEAU #耐震基準 #旧耐震 #土地の歴史 #地歴調査 #3D都市モデル
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